米山高生『物語で読み解く リスクと保険入門』
FinTechについて考える上で、金融がそもそも持つ機能や歴史について勉強しなおしています。保険の勉強のために、積ん読状態であった、米山高生『物語で読み解く リスクと保険入門』を読みましたので、感想等をまとめたいと思います。2013年7月日付の買い物のレシートが挟まっていましたので、3年半前には購入していた本ですが、ようやく読了しました。

本書は、第1部リスク編と第2部保険編に分かれていまして、第1部では「リスク」について理論的な観点から説明が行われています。第2部では、前半は保険の価格(保険料の構成)を中心に理論的に説明が行われ、後半は江戸時代から戦中までの保険募集の広告や、保険証券等の史料を参照にしながら、保険及び保険会社がどのように日本で形成され、普及していったかが説明されています。
第1部 リスク編
ここで学びとなったのは、リスクを考える際に期待値(期待損失額)と期待値まわりの変動があり、保険が提供するのは「期待値の低減」ではなく、「期待値まわりの変動」を低減させることによって、リスクを軽減させるといったことです。
期待値はμ(ミュー)、変動については、分散(
σ2 シグマの二乗)もしくは、標準偏差(σ)を用いて表現され、それぞれの概念については理解していましたが、保険がどちらのリスクを低減するのか、といったことは考えていませんでした。
第2部 保険編
公正保険料(Fair Premium)という概念をはじめて知りました。公正保険料とは、以下の4つの要素から成り立つもので、競争的な市場と整合的な保険料とのことです。
1. 期待保険金コスト(expected claims)を現在価値に割り引いたものを
2. 割引保険金コスト(discounted expected claim) として、
3. 資本コスト(profit loading)と、
4. 管理運営費(expense loading)が合計されたものが、公正保険料である
つまり、
Fair Premium = discounted expected claim + profit loading + expense loading
ですね。
公正保険料と実際の保険料
競争的な市場と整合的というのは、「完全な市場」であれば、公正保険料以外の価格は存在しえないということです。実際には、市場参加者間の情報の非対称性はありますし、完全な市場はありえず、我々消費者も「合理的な」判断を常に行えるわけではないので、公正保険料以外でプライシングされた保険も存在するわけですが、概念として理解しておくのは有益かと思います。
著者の高山氏がまえがきで「国際的な保険実務家の間では公正保険料は基礎的な共通概念だが、日本ではまだ十分に使いこなされている用語ではない」としています。
高山氏の指摘は正しいようで、Googleで「公正保険料」と検索し、ざっと結果をみてみても、「公正な保険料」といった言葉は使用されていますが、「公正保険料」という言葉は見つかりませんでした。本書は2008年に出版されていますが、9年経った今もまだ、一般的にはなっていないということでしょうか。
なお、保険会社で勤めている間に、生命保険講座全8科目を受験しましたが、記憶が確かなら「公正保険料」という言葉は、どのテキストにも存在していなかったように思われます。