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2017年1月28日土曜日

日本証券協会 FinTech報告書

日本証券協会がFinTechに関する報告書をとりまとめました。

「証券業界とフィンテックに関する研究会サーベイグループ」報告書
http://www.jsda.or.jp/shiryo/houkokusyo/fintechsg20170127.html

下記が報告書本文です。
http://www.jsda.or.jp/shiryo/houkokusyo/files/fintechsurveygroup20170127.pdf

気になったポイントをいくつか取り上げます。

まずはレポートに締めくくりで説明されている、「現在の日本の証券市場で、フィンテックを促進する意義」ですが、下記のようにまとめられています。
1. 国民の安定的な資産形成
2. リスクマネーの供給
3. 国際金融センターの形成
1と2については、コインの裏と表というか、一つの事象を二つの異なった側面から説明していることかと思います。伝統的な証券会社ではリーチできていなかった消費者が、Mobile Appやウェブを通した新しいサービスを利用し、株やファンドに投資を始めると、結果として、市場にリスクマネーを供給することになります。

続いてFinTechという潮流のきっかけの一つとして、リーマンショック以降の人材の流動化が挙げられています。FinTechの歴史が語られる際に、下記のように金融機関からスタートアップへの人材に移動が言及されることが多いのですが、実際にどれくらい移動したのか統計データなどあれば見てみたいです。
金融危機により、金融商品の開発、トレーディング、金融機関の IT オペレーションなどに関わってきた人材が大量に流動化し、ICT 産業やベンチャー企業に流入している。ある意味では、金融業界から他業界へ移っていった人材やアイデアが、さまざまなイノベーションと結びつくことによって、外部から金融を揺り動かそうとしているのが、フィンテックによる潮流と解釈することもできよう。(2頁)
本報告書の面白い点は、現在存在しているFinTechに関する技術、サービスを逐次的に取り上げれているのではなく、下記のようにそのようなイノベーションが現在のシステム(体制としてのシステム)や概念をも変貌させるかもしれないことを見据えている点です。
さらに、ICT 分野を中心に、さまざまなイノベーションが継続した場合、今後 10 年などの中長期的スパンで見れば、経済システム自体が、大きく変貌するかも知れない。例えば、仮説として、「契約・信用経済からネットワーク経済へ」「私的財産権から共同利用権へ」 「貨幣を媒介しない取引(市場外取引、物々交換)が重要になる」「個人・法人・市場の境界線が消滅し『株式会社を創る』理由が問い直される」といった予測が提示されている1。実際、ウーバー・テクノロジーズ(Uber、配車アプリ)が単にタクシー業界だけでなく移動手段の考え方自体を革新し始めていることや、エアビーアンドビー(Airbnb、民泊予約サイト)が宿泊や不動産保有という考え方に大きな影響を与え始めていることは、こうした仮説が荒唐無稽な未来予想図とはあながち言えないことを物語っている(3頁)。
第三者(国家や中央銀行)に担保されない貨幣を作ろうという思想が根本にある、ブロックチェーン技術も上記の例の一つでしょう。

下記では、各所で語られていることですが、FinTechはコンテンツ産業等の他業界がテクノロジーによって変化したのと同様、バリューチェーンがアンバンドルされる可能性について言及しています。
【バリューチェーン再構築の可能性】
上記の要素技術によるイノベーションに加えて、人工知能(AI)・ビッグデータ革命などが進展した場合、証券業務におけるバリューチェーンが分解(アンバンドル)され、他の業態・産業セクターも含めた提携・M&A などを通じて再構築(リバンドル)される可能性もある。その過程で起こり得るステップは例えば以下のような流れが考えられる(13頁)。
事実、LINE、DeNA、Amazon、Softbankといった、顧客とのとチャネルを強みとしてしる非金融企業が金融サービスを提供し始めていますし、間違いなくアンバンドルされていくでしょう。

最後に、下記ではNasdaqは開発したシステムを他国で展開するなど、ITベンダーのような取り組みも行っているとのこと。日本取引所も同様の取り組みを行っていくのか、気になります。
米国では、2015 年 12 月、Nasdaq がブロックチェーン技術のスタートアップ企業である Chain と提携して Nasdaq Linq を開発した。これは、株式を公開していない企業の従業員が報酬として与えられた未公開株式を取引できるようにする市場である Nasdaq Private Market の中の株主管理システムの部分をブロックチェーン・ベースの Nasdaq Linq で行うもので、従来は 3 日必要であった取引成立から決済までの期間が 10 分程度に短縮するといった効果がある。Nasdaq は、取引所としてブロックチェーン技術を取り入れる試みを行うと同時に、開発したシステムをエストニアでも展開するなど、IT ベンダーのような取り組みも行っている。

レッドハットのAPI管理システム

レッドハットがAPI管理サービスの提供を始めたとのことです。
「アクセスに利用料を課したり、通信を制限したりできる。」とのこと。

レッドハットがAPI管理システム、既存システムのデジタルビジネス活用を推進
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/news/17/012700265/

複数の企業とAPI連携を行う際に、企業Aにはプログラム1,2,3だけ、企業Bには1,2,3の他に4と5といったケースが出てくると思うのですが、それを基幹システムではなく、このようなAPI管理サービスで実装できると便利ですし、セキュリティ上も、アーキテクチャー上も望ましいでしょう。

また、アクセスに利用料を課すというのはコール数のカウントができたりするのでしょうか。なんにせよ、API連携が増えていくことを考えると重要なサービスの一つになりそうです。

2017年1月26日木曜日

InsurTechとLemonade

森・濱田松本法律事務所の増島雅和氏がInsurTechの本命として、アメリカのLemonade社を紹介しています。

InsurTechの本命、Lemonadeのビジネスモデル

Lemonadeのページをみてみたものの、増島氏が説明されているようにB-Corpが引き受主体となっているかどうかはわかりませんでした。Appをダウンロードするなどして、別途他の情報を確認すればわかるのかもしれないですね。

ただ私が調べてみる限り、B-Corpという会社が存在するのではなく、B Labという非営利組織が管理している「社会的企業」の認証制度のようです。そしてLemonadeはB-Corpとして、「社会的起業」認証されているようです。

B Cooperationのウェブサイト
https://www.bcorporation.net/

WiredではB Lab立ち上げの経緯が説明されています。

WHY BE "B"? B-Corpという挑戦
http://wired.jp/special/2017/b-corp/

Lemonadeのポイントとしては「予定していた損害率と実際の損害率に差があった場合に、その分のお金を契約者に還元しますよ」といったところでしょうか。

貯蓄性の保険において、予定と実際の事故(損害)率、事業費率、利率から生まれる3利源(危険差(死差)、費差、利差)をもとに契約者配当を行う会社はありますが、掛け捨ての損保系の保険で予定と実際の損害率を差をもとに、契約者配当を行っているのは聞いたことがないですね。

なお、事業費については下記のように20%とFixにしているようです。日本の大手損害保険会社が30%、ダイレクト系の損害保険会社でも事業費率は24,5%のところが多いことを考えると、低いコストで経営できるようになっているのでしょう。ただ、アメリカの損害保険会社の事業費率がどれくらいなのかわからないので、20%が「低い」のかどうか判断に困ります。
Q: How are you using my premium dollars?
Glad you asked! Lemonade keeps a fixed 20% fee. This pays for developing loads of cool tech, paying our team's salaries and hopefully making some profit!
The remaining 80%?
Job #1 is to ensure we can always pay claims
Job #2 is to Giveback money that isn’t needed for Job #1. 
保険に加入するにあたって電話での提供は行っておらず、WebとMobile appに絞っているのも、事業費を抑えられる一因でしょう。支払い方法についてもクレジットカードとデビットカードになっておりますし、不要なオペレーションが発生しにくいように仕組みが作られていると思います。
Q: Can I sign up by phone?
Lemonade will be available for signup only through our mobile apps and our website.
増島氏の説明では、保険の引受査定(Underwriting)を再保険会社にアウトソースしているようです。保険金の支払い(Claim)の損害調査は間違いなくアウトソースされているようですし、バリューチェーンにおいてLemonadeが担っているのは、商品開発、ディストリビューション、リスク引受と資産運用といったところでしょうか。

日本の保険会社のようにディスクロージャー誌がでるようでしたら、是非詳細にみてLemonadeのビジネスモデルを詳しく知りたいです。

*なお別途ポストしますが、増島氏がまとめられているFinTechに関するレポートが、FinTechの本質を理解するにあたって非常にわかりやすかったです。